演劇講座 第5回「演技の場所

 演技をする時に場所はとても大切な要素です。この場合演技の場所は演技を行う場所(例えば舞台なら舞台上)のみにとどまらず、演技を見せたい場所(客席など)や、距離、空間(天井の高さや奥行き)までまでを含みます。

 同じストーリー同じシチュエーションであっても場所が変わると演技も変わってきます。これは前回の“誰に対して演技をおこなっているのか”という事の続きにあります。

 例えば、6畳ほどの広さの室内で3人の観客に対して演技を行った時と、野外のグラウンドで3人の観客に対して演技を行った時、又はグラウンドでは観客との距離がすぐそこにいる観客もいれば、20mほど離れた場所で見ている観客もいたりします。
 この場合、1番低レベルの話しでは、室内なら声は確実に届きますが、屋外では離れた観客まで声が届かないといった事などは容易におこります。

 この場合同じ演技で声だけを大きくすればいいんでしょうか?声だけのみならず顔や体の動きも大きくしなければならないんでしょうか?では、その場合セリフや体の動きが出る動機となっている気持ちの動きは、同じでいいんでしょうか?

 気持ちの動きが同じなのに、声や体の動きだけ大きくしたんでは、ただのやってるフリ、登場人物の大げさなモノマネという事になり演技にはなっていきません。
 また、体育館など大きな場所で練習した演技を、小さなアトリエで同じようにおこなっても、非常に違和感のある演技になってしまいます。

 演技には演技を行う場所が存在し、それはどこまでを自分の演劇の空間かと意識する事で演技の場所は決まって行きます。
 劇場など限られた空間では、客席や高さを含むその空間一杯が演技の場所になっていくでしょうし、野外など無限大の空間では、あのお客さんまで、あの白線まで、高さはあの程度までと言うように具体的に決めて行きます。

 前回、誰に対して演技を見せたいのかという事をやりました。その時、見せたい相手が1人なのか2人なのか10人なのかで演技は変わっていきました。
 では見せたい相手がすぐ近くにいる場合と、遠くにいる場合ではどうでしょうか。

 今行っている演技を、遠く離れたあの人に見せたいという意識を持ながら、ストーリーやシチュエーション、登場人物に浸った演技をして見ます。届かせるために大げさな演技をするわけではありません、遠くのあの人までを意識した上でその時の気持ちとイコールな演技をおこなうだけで、演技そのもののやり方は、今までと全く変わりません。

 届かせたい距離を色々変えて見ましょう。この場合も、演技の世界への感じ方は同じで、ただ見せたい相手への距離を具体的に(近いなら近いなりに、遠いなら遠いなりに)意識した上でイコールな演技を行います。

 大げさにとか、リアルにとかの無理したモノマネの演技をしなくても、見せたい距離によって、自然に演技は変わってきたと思います。

 あとは、それを空間にまで広げていきます。演技を行う場所と規定した空間の体積の隅々まで、自分の演技の体積を広げていきます。
 スタジオの様に狭く、高さも低い場所なのか、体育館の様に広く高さもある場所なのか、色々なサイズを自分の演技で満たしてみましょう。

 今までのように、見ている人に対しての直線的な演技の出方では、なかなか空間は満ちて行きませんが、3次元の空間を意識する事でその場が自分の演劇空間として満たされていきます。

 すると見せたい相手(観客)に直接向き合った演技ではなく、相手役だったり、見せたい相手(観客)に向かっていなくても、その空間内にいる人達全てにあなたの演技は届いていくようになります。

 演技には、必ず見せたい相手と、演技を行なう3次元の空間があった上で行なわれなければいけません。

(2000年11月1日)

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