演劇講座 第7回「逆モーション

 今日はテクニックの話です。と言ったって発声や滑舌なんかじゃなく、ちょっとした発想の切り替えだけですから、安心して読んじゃいましょう。

 前回までで感じた事を感じた分だけ表現できるようになってきたと思います。しかしまだまだ表現したりないなんて事や、演技を見てる人達から見ると怒鳴ってるだけ、力んでるだけの様に見えるなんて事は無いでしょうか。

 例えば「今何時?」と言うような、大きく気持ちが動くセリフじゃない場合はそれほど問題無いでしょう。(もちろんシチュエーションによっては非常に大きく動く場合もあるでしょうが)しかし「ジュリエット、なぜ死んだんだーーーーーっ」という場合など、これでもかと大きな感情を表現しなければいけません。

 この場合、これでもかと大きく息を吸い、これでもかと声を張り上げ、これでもかと腕を振り下ろし、これでもかと力んでも、もっと大きな感情が表現したくなったりします。演技はどんどん力が入り、声はかすれ、身体は全身緊張し、汗がダラダラと滝の様に流れます。

 でも、演じる役者はまだ物足りないと感じ、ますます力が入りますが、観客から見るとむやみに力んでいるだけになり、ますます感情は伝わりにくくなったりします。

 こうなったら悪循環です。こんな時に逆モーションを使ってみましょう。

 通常「ジュリエット、なぜ死んだんだーーーーっ」というセリフを、立って言う場合、真っ直ぐ立ち腰から胸の辺りでグーを握り、セリフと同時に前かがみになり、握った腕を振り下ろすと言った感じなると思います。

 このセリフを逆モーションを使うとどうなるでしょうか。

 真っ直ぐ立った状態から息を吸うのと同時に後ろに反り返ります。腰の辺りにある手も頭の後ろ辺りまで持ち上げておき、セリフと同時に一気に前かがみになり、腕も振り下ろします。
 真っ直ぐ立った状態よりも上体や腕の軌跡が大きくなり、力まなくても今まで一生懸命に力んでいた以上の感情が表現できたんじゃないでしょうか。
 この時足を一歩後ろに引いてからスタートしてもいいでしょう。また、まず前かがみになり腕をダラッと下まで下げた所からスタートし、セリフを喋りながら思いっきり後ろに反り返る。なんて事も出来そうです。


(逆モーションを絵にしてみました。やー、手抜きですいません。でも、笑えますね…)

 逆モーションの方法は、まず感情を放出させたい方向とは逆に身体を移動させ、そこから一気に本来の方向に身体を反転させるという事です、なんて簡単。

 これは色んな事に使えます。例えば下手に向かって走り去る時、まず上手に重心を移動させてから一気に下手に走り出す。とか、指差す場合、指を差したい方向とは逆に腕を持ち上げた後で本来の方向へ指を動かす。感情を放出させたい方向とは逆に目線を動かしそこから本来の方向へ目線を動かす、等々…

 さらに体の動きに円運動を加えてみましょう。指差す方向とは逆に持ち上げた指を本来の方向に動かす時、指の軌跡が直線ではなく、身体から1番離れた円を描く様に動かします。これだけで直線的に一生懸命伸ばした人差し指より、より強烈な指差しが出来ます。

 逆モーションとは、役者の使える空間を全て使い切って表現するための方法です。空間はどんどん使っても小道具や大道具と違ってタダです、使える物はじゃんじゃん使っちゃいましょう。

(2001年4月1日)

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