演劇講座 第8回「発声練習その1

 発声練習と称して、「あー」とか「あえいうえおあお」とやってるのを見かけます。これはこれで単一音の大きい声を出す練習にはなっているんですが、芝居の発声はそれだけじゃないはずです。

 演劇の場所、役、シチュエーション、あらわしたい事柄によって、それぞれ最適な発声があるはずです。例えば野外、テント、仮設会場などでは声がとおりにくく、より大きな、とおる声で喋らなければならないでしょう。しかしビルの中にある50人ほどしか入らない小劇場では、小さな声で喋っても十分に聞き取ることができます。
 ならば、大きな声は出なくても、より表現に適した発声がいろいろと考えられるんじゃないでしょうか。演じる場所、役、シチュエーション、感情の動きなどで使い分けられるようになりましょう。

呼吸法1

 呼吸法にはまず腹式呼吸と、胸式呼吸があります。腹式呼吸は横隔膜が下(足)の方に下がり、胸式呼吸はろっ骨が横に開いて呼吸するということらしいです。生まれてすぐの「オギャー」は腹式呼吸らしいですが、なぜか人間を長く続けると胸式呼吸になっていくようで、皆さん普通に呼吸しているときは胸式呼吸だそうです。

 ということで胸式呼吸はおいといて腹式呼吸の方法

 眠っている時、リラックスして仰向けになっている時、風呂でウトウトしている時などは腹式呼吸だそうです。そこでまず仰向けに寝てリラックスします。
 大きく息を吸い込んだりすると体が緊張しますから、リラックスして普通に呼吸してみます。横隔膜が下(足)の方に下がり、呼吸とともに、お腹が動いています。この状態で腹式呼吸の感覚がつかめたら、ゆっくりと腹式呼吸を意識しながら立ち上がります。
 立ち上がったときも、できるだけリラックスして、普通に呼吸します。しっかりと感覚がつかめてきたら、少しづつ大きく息を吸ってみます。

 腹式呼吸ができるようになったら、胸式、複式と呼吸法を使い分けて見ましょう。

呼吸法2

 空気の通り道は口と鼻の2つあります。発声をするときは口から息を出さなければ声が出ないんじゃないかと心配ですが、鼻から息を出しても声は出るんですね、あらビックリ。
 といっても何の事はない、鼻歌の状態です。気分のいい時など口を閉じて鼻から息を出しながら「MU〜MUMUMU〜」なんてやっちゃいますね、あれが鼻から息を出しながらの発声です。もちろん鼻100パーセントだと何を言ってるのか非常にわかりづらいですが。
 また、風邪で鼻が完全に詰まったときの「あどで〜はだづまりなんだ(あのね〜鼻詰まりなんだ)」はもちろん口100パーセントですね。

 この鼻から息を出しながら、口から息を出しながらの割合をいろいろに変えることによっても、声が変わってきます。

 口から呼吸というのもわかりやすいと思いますから、鼻から息を出しながらの発声をやって見ましょう。

 口を閉じ、鼻からゆっくりと息を出します。息を出しながら「んー」と音を出していきます。口を閉じたまま「んー」を「あー」のつもりの音に変化させていきます。次に口をあけます。できるだけ口から息をはかないように気を付けながら、「んまー」と声を出していきます。
 この時はまだ大きな声じゃなくてもかまいません。
 「んまー」とできたら、そのまま声を出しながら、手で口をふさいで見ましょう。息が止まらずにそのまま発声を続けることができたなら、鼻から息を出しながらの発声は成功です。

 次に「んまー」とやりながら、口と鼻の息の出具合をいろいろに調整してみます。口100パーセントになった時に、再び手で口をふさいで見ましょう。本当に口からのみの発声の時には、息が止まり、手の隙間から「プシュ〜」と息が漏れるだけになります。

 この時の声の変化にも注意しながら、口、鼻の割合を自由に変えられるようにしましょう。

あっという間のまとめ

 呼吸法1では腹式呼吸胸式呼吸をやり、呼吸法2では口から、鼻からをやりました。もちろん大きくとおる声を出すのに適した方法はあるでしょうが、その声でしか演技ができないんじゃ面白くありません。腹式呼吸で鼻から息を出す、腹式呼吸で口から息を出す、胸式呼吸で口から息を出す、胸式呼吸で鼻から息を出す、またそれぞれの割合をいろいろに変えてみる。これだけで表現力はかなり違うと思います。

 この発声でなければ正しい発声法じゃないという固定観念を捨て去り、演技に適した発声で表現できるようになりましょう。

蛇足
例題1:)口を斜めに大きく開け、腹式呼吸で、口100パーセント、低い音でのどの奥から「あのよほ」で田中邦衛
例題2:)リラックスして薄く口を開け、唇をほとんど動かさずに舌先で、鼻80パーセント、高めの声で「セ○スイハウス」で森本レオ

(2001年5月7日)

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