演劇講座 第9回「仕込み日

 今回の演劇講座は役者の仕事から離れて、劇場入り初日の作業を書いて見ます。私は海賊船主宰者で劇作家で演出家で音響屋で元舞台屋と「一体お前は何者なんだ」って奴の為、他劇団のスタッフとして現場に入ったりしますが、その際あまりにも段取りが悪く、仕込作業がスムーズに行かないと言う事も多いため、仕込作業の参考になればと思います。
 また、演劇の仕込作業という事で、コンサート、ダンスなどはこれとは若干違う場合もあります。

搬入

 小劇場演劇の場合、大道具は劇団内ですませても、照明、音響は大抵の場合外部業者に発注する事になると思います。
 照明、音響など外部業者さんを発注している場合でも搬入作業は出来るだけ手伝うようにするようにしましょう。搬入作業がスムーズに進むのはもちろん、ほとんどのスタッフさんとはその日初めてうわけですから、お互いに顔を確認でき1日の作業が進めやすくなります。
 搬入順序は照明、大道具、音響、衣装その他という順番になります。搬入した物は次の搬入の邪魔にならない所へ照明は照明、音響は音響とパートごとにまとめて置くようにします。基本的に照明機材は舞台上へ、大道具などは舞台袖や舞台の前、奥など照明吊り込みの邪魔にならない場所へ、音響は花道、客席通路などへ置くようにします。

仕込み

 仕込み順は大雑把に分けると、照明、大道具、音響の順になります。
 まず照明係がバトン吊りする照明機材を吊りこみます。照明バトンに吊り物やマイクなどを共吊りする場合はこの時一緒に吊っておきます。その間、大道具係は必要な平台や箱馬など会館機材を用意したり、切り出しに人形をつけたりなど舞台袖や客席で出来る程度の作業や、角材、道具類の仕分けをしておきます。
 照明吊りこみが終わったら、大道具の作業になります。作業の流れは大雑把に言うと地ガスリ、吊り物、セット組み立て、幕類という順になります。セットの位置や大きさ、吊り物の種類によっては吊り物をセットの後にする事もあります。この時棚等の高さや目張りなどの細かい作業にこだわりすぎると全体の進行が遅れがちになるので、シュートやサウンドチェックの合間に出来そうな事なら、無視して早くセットを立て切ってしまうようにします。
 小劇場演劇では劇団内で大道具をやる事がほとんどで、進行の遅れもまずここから来ます。時間一杯使って細部まできれいにセットを組むのではなく、早くセットを組みあげ残った時間で修正すると考えた 方がいいでしょう。また場当り、照明合わせなど他作業が進行中でも出来る細かい修正、色塗りなどの作業はどんどん後回しにし、優先させなければならない作業をキチっと終わらせるよう段取り良く進めます。
 舞台上で大道具作業が進行している間、照明はフロント、シーリング、卓周りの作業になります。音響もある程度舞台が出来あがるまで舞台上の作業は出来ません。卓周り、渡り回線などの作業になります。舞台上大道具がある程度出来あがってきたら、照明はSS、フットライトなど舞台に置く燈体を、音響はスピーカー、マイクなどをセッティングしていきます。
 照明、音響は舞台上の作業の流れを見ながら回線のチェックをしていきます。照明は舞台上作業中は真っ暗にならないよう、音響は大きな音を出さないよう気をつけます。

シュート

 大道具の作業はこの時までにほとんど終え、照明さんはシュートに入ります。転換後の照明や立ち位置などに合わせる場合もありますから、大道具係りもそれに合わせ転換や、セットの位置決めなどをして行きます。また、後回しにした細かい作業や修正なども照明作業の邪魔にならないようこの時進めます。高所作業や、バトン操作など危険な作業が出てくるので、音響はこの時音を出せません、さっさと休憩に入ります。

サウンドチェック

 シュートが終わったらサウンドチェックになります。まず機器間のバランスを取ったりGEQなどでスピーカーのチューニングをし、その後マイクレベル、BGMレベルの調整をします。楽器を使う場合はこの時楽器やモニタースピーカーのバランスもとっておきます。この時は大道具さん、照明さんには休憩に入ってもらうか、明かり作りの打ちこみ作業などをしてもらい出来るだけ無音状態になるようにします。

場当たり(キッカケ合わせ)

 場当りと、演技の稽古を混同しがちになった場当りを時々見かけます。場当たりで大切なのは照明、音響、転換、立ち位置、登退場などのキッカケの無い場面の稽古をしない、演技のダメだしをしないと言う事です。演技のダメだしを何回もしながら進行して、結局時間内に最後まで出来なかったなどという事もありえますし、あまり長時間に渡る場当り稽古になるとキャストスタッフとも疲れてしまいます。演技の稽古時間が必要ならば、あらかじめ場当りとは別に稽古の時間を組んでおきます。
 立ち位置、キッカケ、動きの確認、その他稽古場で出来なかった段取りの確認作業をテキパキとこなし、予定時間より早く終われるように努力します。
 もし場当たりが早く終わり時間があまれば、演技の稽古時間に振り当てる事が出来ます。大道具など進行が遅れている場合、場当りの邪魔にならない程度の細かい仕上げ作業などはどんどん進めていっても構いません。

明かり合わせ(絵作り、データ取り)

 場当りが終わると照明さんは場面の照明を決めていく作業に入ります。照明プランそのものがシンプルな場合場当り中に同時進行してしまうこともありますが、普通はかなり時間のかかる作業なので、演出者が立ち合いつつこの時間をとるようにする事が望ましいと言えます。また、この時間を利用して演技の稽古をする事も可能です。この場合照明さんは練習している場面とは違う場面の明かりを作っていますから、練習場面の明かりを作るような要求を出してはいけません。また、舞台上が暗くなる場合はいったん稽古を中断し、明るくなるのを待ちます。音響は必要無い限り音を出さないようにします。

通し稽古

 基本的に照明、音響も稽古に付き合いある程度本番と同じ形で行いますが、ゲネプロ(舞台稽古)と違いこの通し稽古は進行上何か不具合が起きたらどんどん止めるつもりで行います。例えば場面の変わり目で暗転になった時など、何も分からず無理して暗転の中で動いてはいけません。いったん稽古を止め蓄光テープや袖明かりなどで問題を解決し先へ進めます。出ハケの場所や転換なども、問題があれば稽古を止め、安全にスムーズに行くよう問題を解決していきます。照明、音響へのダメ出しもこの時に行います。

ゲネプロ(舞台稽古)

 全て本番同様に進行します。開演ベル、緞帳、衣裳、メイク、アナウンスなども全て本番同様に行います。ただ、本番同様だからといって危険なアクシデントが起こった(起こりそうな)時には、いったん稽古を止める事も重要です。本番同様だからとイチかバチかで進行してしまい、怪我やセット、機材の破損などが起こってしまったら本番に支障が出ます。全て本番通りのゲネプロと言えど本番がスムーズに進行するための最終確認の稽古です。ゲネプロで失敗し問題点を全て明らかにし、スムーズに本番が進行するようなゲネプロにします。

まとめ

 すばらしいセット、奇抜な演出も観客を楽しませる事になりますが、そのために安全性やスムーズな仕込み作業が犠牲になると、最悪の場合本番を迎える事も出来なくなります。無理の無い仕込みプラン、仕込みスケジュールを組み、十分な稽古時間を取り、安全で、キャストの力が本番でフルに発揮できる仕込み日になるよう心がけていきましょう。

 と言うわけでいつもと趣向を変えてお送りしましたがいかがでしたでしょうか。俳優講座じゃなく演劇講座なので、これを機会にもっと色んな方向から演劇を語ってみてもいいかなと思います。

(2001年8月25日)

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