演劇講座 第14回「朗読

先週、何万年かぶりに更新したと思ったら、またまたメールいただきまして、2週続けて更新です。天変地異でも起こらなきゃいいんですが…(と言っても私、天変地異は好きです) で、今週もメールのご紹介とつたない回答です。

朗読って何なんでしょ?

実は今日、劇団内で抜き打ちテストなるものをしましてその中に朗読があったのですが「朗読が何なのか考えろ」と言われてしまいました。

自分が思うに伝える気持ちが一番だと思っていたのですが伝える力が足りないのか、それとも根本的に朗読に対して誤った考えを持っているのか・・・。たぶん座長に聞けって言いたくなると思いますが「自分で考えろ」と言われてしまい、考えた結果が上の通りです。

それともう一つ、上の内容と少し被るのですが、伝える力の訓練ってあるのでしょうか?

朗読…難しいですね、と言うわけで私の返信

 海賊船II 糟谷です、メールどうもありがとうございました。

 朗読なんですが、ハッキリ言ってしまうと、私も朗読は良く分かりません。で、朗読について一緒に考えてみましょうか。

 そもそも朗読はどこまでの範囲が朗読なのか、例えばナレーションは朗読に入るのか役割分担を決めての朗読劇や、一人で全てをやる、まあ、普通に考える朗読まで様々な形態があります。

 とりあえず、一人で全てを読む朗読について考えましょうか。
 その場合、演劇と何が同じで何が違うんでしょう。観客として朗読を見た場合、見る側がイメージしなければならない量が演劇に比べはるかに多そうです。

 演劇はセットがあり小道具があり衣裳があり(無い場合も往々にしてありますが)キャストは別々の役者が具体的に演じますから、観客はそれぞれを確定した具体的なものとして見る事になります。ですから観客はあの人(役)はこんな事を感じている、この場面からはこんな事を感じると直接的に受け取る事になります。
 それが朗読の場合、具体的なイメージは全て観客にまかせられます。風景、建物などのシチュエーションから登場人物の姿、表情、髪型など普通は俳優が作るべきイメージも全て観客にゆだねられます。また観客はそのイメージを作り上げる事そのものも、朗読を聞く楽しみとして持っているかもしれません。という事は、観客が作り上げた朗読の世界観に、余分な意志が入るよりは、登場人物の具体的な感情や、場面に流れる情感も観客が作り上げる方がいいかも知れません。

 ある意味、朗読の観客は演出家であり、俳優であるとも言えるでしょう。であるならば、読み手は演劇で要求するような具体的な表現をするより、自由にイメージを膨らませやすいように読むのがいいのかもしれません。

 と言う事は、朗読は観客が物語の世界を作り上げるための素材の提示と言う事でどうでしょう。

 朗読の読み方は、ただの棒読みでもなく、リアリティのあるセリフとも違い、つかんで欲しい雰囲気(楽しい、悲しいなど)はしっかりと伝え、具体的な感情表現や役作りなどは控えめにし、はっきりと聞き取りやすく読む、と言った感じになりそうです。

 ナレーションになるともっとこの傾向がはっきりするような気がします。「プロジェクトXやF-1グランプリ」のナレーションが好きなんですが、これなどは全体の雰囲気に重点を置き、セリフの部分なども話し言葉らしくなく、ナレーション全体に溶け込んだような感じになっていたりします。

 しかし物語りの会話にはリアリティがなくても、読み手にリアリティがあることは往々にしてありそうです。例えば囲炉裏端で年寄りが昔話をするとか屋敷の主人がゲストに物語を聞かせる、なんて朗読の演出もありそうです。この場合朗読者は、物語の中の登場人物ではなく、物語を語っている人物をリアルに演ずる事になりそうです。

 何人かで読む朗読の場合、順番に例えばストーリーの章毎に読み分ける時などは一人の朗読と同じでよさそうですが、文章部分を読む人、人物ごとに読む人を分ける場合などは、もう少し演劇に近いセリフ表現になってもよさそうです。

 どうでしょうか、本当に申し訳ないですが、私は朗読を専門に勉強した事がありませんから、これが朗読の読み方だと言うことははっきり分かりませんが、私が朗読を演出するとしたら以上のような感じになるんじゃないかと思います。参考になりました?

 伝える訓練についてですが、よく行われている方法に、聞き手を振り向かせると言うのがあります。

 まず語り掛けられる人数人、語りかける人一人に分かれます。語り掛けられる人は、語り掛ける人から等間隔にならないようばらばらの位置に、後ろ向きに立ち(座り)ます。語り掛ける人は、そのうちの特定の人や何人かのかたまり、または全員に向かって話し掛け、話し掛けられたと感じられた人は振り向くと言うものです。

 最初は「おい」「こんにちわ」という簡単な言葉から始め、だんだんと普通の会話にして行くのがいいと思います。最初は難しいですが、不思議な事にだんだんと特定の人に向かって語り掛ける事ができるようになって行きます。

 よく似た方法に、遠く離れて立ちお互いに向き合って会話すると言うものもあります。
 話し掛けられるほうは、感情が届いたと感じたら返事をします。これも最初のうち、声は届いてもなかなか感情が届いたと感じる事が出来なかったりします。
 これらの方法で届かせる距離や方向をコントロールする事ができるようになると思います。

 色々考えていたら返事が遅くなってしまいました、テストに間に合ったでしょうか。分かりにくい所、納得できない所などあれば、またメールください。

 と言うわけで、わからないことはわかる範囲で頑張ってお答えしたいと思います。皆様の質問、ご意見、反論などお待ちしております。

(2004年7月14日)

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