演劇講座 第2回「表現方法

 書き始めて早速浦安市のA様より応援メールいただきました、ありがとうございます。こうなるとガゼン張り切って調子に乗るのが長所(?)なんで、疾風怒涛の第2回。

 感じた事を感じたサイズで表現できればいい訳なんですが、これがなかなか難しいし、ましてや初心者にとってはそれが一体どんな事なのか、何をしたらいいのか見当もつきません。
 また表現するためには、感じていかなければいけない訳ですが、これも“経験を通じて徐々に”と言った感じになりますから、今現在感じられるだけのところからでスタートしましょう。

 感じて行くのに分かりやすいのは『役の気持ち』です。ところが表現するのにやりやすいのは『役者自身の気持ち』です。そこで、今の自分の気持ちでセリフを作ってそのセリフで練習する事にします。

 今の気持ちは当然『さあ、頑張って演技の練習をするぞ』とか『俺は、一生芝居をやっていくんだ』とか中には「世の中の人のために役に立ちたい』という“きとく”な人も居るでしょう。出来ればチョット長めに「俺は一生芝居を続け、芝居を通じて世の中の役に立ちたい、たとえ世間に認められなくても自分自身を裏切りたくない」くらいあると、練習しやすいかと思います。

 さあ、セリフが書けました。今の気持ちでセリフを考えたので当然『役の気持ち』と『役者の気持ち』はイコールです。これで練習して見ましょう。

 セリフとして喋って見ます。どうでしょうか、そのいい方で自分の気持ちは表現できたでしょうか?おそらくダメだったんじゃないかと思います。

 そこでまず、自分の芝居に賭ける情熱を思いっきり体の中にため込みます。ため込んだ分セリフとして外へ出して見ましょう。出して見て、自分のセリフは本当に自分のやりたい気持ちとイコールだったか思い返してみます。
 ここでイコールならば何の問題もありません、とっとと次へ進みます。

 しかし、演劇を始めたばかりの初心者にとってなかなかそれで自分のやる気のある気持ちとイコールだとはなりません。私も新人達にやらせてみて「君の演技にかける情熱は本当にそれだけ?」と聞くと、たいてい「いえ、こんなもんじゃありません」と答えが返ってきます。

 この分かりやすい状況でも感じている気持ちと表現できる演技はイコールにならず、ほとんどの場合『感じた気持ち>表現できたもの』となります。
 また、より強い思いに聞かせるためイントネーションを工夫したり、間のとりかたを考えたりすると、やればやるほど、どんどんと自分の気持ちからは離れていきます。

 そこで、気持ちをため込む時、気持ちと同じだけ息を吸い込みます。「やる気で胸いっぱい」なら胸いっぱいの息を、目ん玉がまん丸で飛び出すくらいの勢いで吸い込みます。  吸い込んだ息の体積が今の気持ちの量です。「ホントにそんなもんですか?もっと吸っとかなくていいですか?」じゃ、吸った息を全部吐いてセリフを喋りましょう。吸った時と同じくらいの勢いで一気に吐き出します。
 長いセリフは一息では言えないでしょうから、セリフの点(、)や丸(。)を利用して再び息継ぎしてまた吐き出します。

 今度はどうでしょう、ちょっと自分の気持ちに近づいてきませんか?腹式呼吸なんて気にしなくても大丈夫です、じゃんじゃん肩と胸を動かしてセリフを喋ってください。  何度かやってみるとセリフと自分の気持ちがどんどん近づき自分で「俺のやる気はこれぐらい、OKOK」となり、ずいぶん自分自身すっきりした爽快感が残ると思います。この状態に慣れておいてください。

 ここまで来たらいよいよ他人のセリフです。台本上から出来るだけ自分の気持ち(俺は頑張って演技をするぞ〜!)に近い物を探します。例えば「私は、空が飛びたい」とか「私は、ロミオに会いたい」みたいなヤツです。

 さて、セリフを喋って見ます。自分の気持ちは前にやった「演技を頑張るぞ〜」ってのですからこれとイコールな分だけの息を吸い込み(気持ちをため込み)ます。その上でそれと同じくらいロミオに会いたい気持ちになってください。『私はジュリエット、ああ、私のロミオ』と思いこみ、どんどんその世界にひたっていきます。『私はジュリエット』とすっかり勘違いしたところで「私はロミオに会いたい」と言ってみましょう。

 息を自分の気持ちと同じだけ吸い込み、役の世界観(気持ち)で喋ります。

 この時前にやった「芝居がしたい!」と同じくらい爽快感が残り、自分自身で自分のセリフに満足できればOKです。

 自分の気持ち(芝居がしたい!芝居が楽しい!)から遠い気持ちのセリフになるとだんだん難しくなります。例えば「今日はいい天気」とか「山田さんの送別式って5時からだっけ」なんてとてもむつかしいと思います。初めのうちは出来るだけ役の気持ちも(やる気になってる)所を探し出し、色々なセリフでだんだんと慣れていけば大丈夫です。

 その内役者自身は(芝居が楽しい〜!)と感じながら「今何時だっけ」といったセリフも言えるようになりますし、役者の気持ちはそのままに吸い込む息の量が役の気持ちとイコールとなっても、同じような満足感や爽快感は出せるようになります。

 ただ、時間はかかります。最初の内はどんな演技をしようが、どんな役柄だろうが思いっきり息を吸って、思いっきり吐き出すシャウトしっぱなしな演技になります。しかし慣れれば必ずどんなセリフも言えるようになりますから、小手先のイントネーションでごまかす癖をつけないよう、堂々とへたくそなシャウト芝居をしていてください。

 ヘタなうちはヘタで十分です、ムリして背伸びせず、ヘタだけどやって楽しい演技をしましょう。これが見てて楽しい(見ていたい)演技につながっていきます。

(2000年8月9日)

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